煉瓦造建造物研究委員会

緒 言
本研究の目的は、北海道における明治期の煉瓦造建造物の所在を明らかにし、現地調査によって煉瓦の形状を実測し、さらに煉瓦の基礎的な成分分析をとおして生産地の推定をおこなうための基礎データーを収集することにある。
これまで個々の建造物の煉瓦が、いつ、どこで、どのように生産されたかについては、特定の場合を除いて不明であり、唯一、目視で製造元を確認できるのは刻印による判定である。
そこで、本研究は、北海道の主要な明治期の煉瓦を対象として、次の方法によって、生産地を推定するためのデーターを収集する。

1)北海道における主要な煉瓦建造物の遺構リストと既往研究にもとづく煉瓦工場創設の沿革を作成
2)現地調査による煉瓦の形状(寸法、色、目地、積み方など)の実測と試料の採集
3)煉瓦の主成分元素組成を分析するための実験方法を試行する
4)上記のデーターにもとづき、生産地を推定するための基礎資料を作成する

委員構成
本委員会の構成員は、次のとおりである。
主査 駒木 定正 (北海道職業能力開発大学校建築科)
委員 石川 直章 (小樽市教育委員会)
角 幸博 (北海道大学大学院工学研究科都市環境工学専攻)
小林 孝二 (北海道開拓記念館)
皿井 博美 (北海道立工業試験場化学技術部野幌分室)
園部 真幸 (江別市教育委員会)
高島 敏行 (北海道工業大学機械工学科)
水野信太郎 (北海道浅井学園大学生涯学習システム学部)

調査・研究の概要
本研究は2箇年計画(1999年~2000年度)であり、1999年度における1年間の主な活動と調査・研究の成果を述べよう。
委員会は4回開催し、さらに煉瓦造調査WGを組織して下記の調査を実施した。
1999年7月26日 手宮機関車室実測調査
1999年9月25日 旧開拓使函館支庁書籍庫実測調査
1999年9月26日 旧茂辺地煉化石製造所跡・旧金森洋物店調査
1999年11月6日 旧屯田兵第三大隊本部火薬庫調査
1999年11月10日 旧北海道庁本庁舎
1999年11月15日 陸上自衛隊真駒内駐屯地(旧進駐軍キャンプクロフォード)実測調査
1999年11月18日 セラミックアートセンター所蔵煉瓦調査
1999年11月19日 旧札幌製糖会社調査
1999年11月22日 札幌市白石区役所・旧鈴木煉瓦製造所跡調査
1999年11月25日 セラミックアートセンター所蔵煉瓦調査
2000年2月14日 小樽オルゴール堂(旧共成株式会社)・海猫屋(旧磯野商店倉庫)調査

研究成果の概要は下記のとおりである。

1)煉瓦(単材・建築)の年代判定指標
煉瓦を単材として年代を判定する場合の要点を4つ(形状・寸法、色調、平の仕上げ、刻印)上げ、また煉瓦建築の年代判定として積み方、接着剤、構造補強材料について検討した。
2)北海道の煉瓦製造と主要な煉瓦建造物の遺構
北海道の煉瓦製造の沿革を表にまとめ、さらに主要な遺構を一覧で示した。
3)進駐軍キャンプクロフォードの建築と木骨煉瓦造兵舎
本委員会に設けた煉瓦造調査WGが調査した旧進駐軍キャンプクロフォードの建設と木骨煉瓦造の兵舎の建築概要まとめた。
4)煉瓦造建造物の実測と煉瓦寸法の比較
煉瓦の寸法を実測し、とくに茂辺地煉化石製造所(函館上磯)と鈴木煉瓦製造所(札幌白石)製の煉瓦および明治中期以降に煉瓦製造の中心地となる野幌(江別)の煉瓦寸法を比較しながら、製造年、建築規模などによって寸法が異なる傾向にあることを検討した。明治20年代の旧北海道庁本庁舎と旧札幌製糖会社の煉瓦は、全体的に大きい点に特徴がある。ともに、今回の実測対象とした建築中では大規模な建物であり。その影響が煉瓦寸法にあらわれたと推察される。2つの建物の煉瓦寸法は、長さが約230・、厚さが約55・であり、とくに煉瓦の長さは明治10・30・40年代の建物よりも10・ほど長くなっている。
5)煉瓦産地特定のためのキャラクタリゼーション
産地推定のために産地が異なる煉瓦と煉瓦用粘土を試験材料に用いて光学顕微鏡、走査電子顕微鏡および蛍光X線分析によって組織観察と定性・定量分析の基礎実験をおこない報告をした。今年度は、分析手法確立のために、煉瓦を粉砕・プレス成形・焼成の前処理を施した。
6)考古学における胎土分析の現状―煉瓦への応用―
考古学における胎土分析の現状をとおして煉瓦の成分分析への応用を考察し、データ
の収集、鉱物属性の熱変化、 蛍光X線による分析などの課題を検討した。

まとめ
本年度(2000年度)においては、上記の研究をもとにさらにデータを集積し比較検討しながら成果をまとめる予定である(2001年3月現在、編集中)。
実測建物によって収集した基本データをもとに煉瓦の製造工場と建築年代および建物の規模によって煉瓦の寸法が異なる点または共通する点を見出しつつある。2年度分のデータを比較しながら煉瓦寸法から建築年代、製造工場を推定できる可能性を検討している。
煉瓦の成分分析の比較は、焼成をおこなわない試料での分析と試料についての分析をおこない、データを蓄積している。煉瓦の特性を把握するためには、X線回折法による鉱物質の構造解析は重要な要素と考えられる。

AIJ Hokkaido Branch